「静電気除去糸を使って、ゴム紐のように伸び縮みするひもを作れませんか?」そんな技術相談をいただきました。

ご希望は、外径2mm以内の細い丸紐。しかも、単に伸びるだけではありません。導電性を持たせながら、ゴム紐のような伸縮性も持たせたい。検討が進むにつれ、目指しているものが見えてきました。「伸びる電線」のようなものを作れないか。

今回は、ひも屋の製紐技術と電線の技術が交わった、少し珍しい試作事例です。

まずは導電糸入りの丸ゴムから

最初に、導電糸を使用した丸ゴムのサンプルをご用意しました。丸ゴムは、中心にゴム糸を入れ、そのゴム糸を伸ばしてテンションをかけた状態で、周囲を糸で組み上げて作ります。製紐が終わってテンションがなくなると、中心のゴムが元に戻ろうとします。この戻る力によって、丸ゴムの伸縮性が生まれます。

まずは導電糸の割合が異なるサンプルで、実際に使用した際の効果を確認していただきました。

伸びる。でも、必要な導電性が出ない

試作品を検証いただいたところ、伸び率については問題ありませんでした。ところが、もう一つの重要な条件である導電性能では、希望する抵抗値が得られませんでした。一方で、導電糸の割合を増やしたサンプルの方が良い結果が出たため、「もっと導電糸の割合を増やせないか」という検討へ進みます。

  • 導電糸85%以上
  • さらに100%
  • できるだけ細く
  • 伸縮性も残す

条件が増えるほど、製造のバランスは難しくなっていきます。

目標は「伸びる電線」

お客様が考えられていたのは、完成した導電性の丸ゴムに、電線のように樹脂を被覆する方法でした。中身が伸縮し、その周囲を弾力性のある樹脂で覆う。それによって、導電性を持ちながら伸び縮みする線材が作れないかという構想です。

ただし、新たな問題もあります。樹脂を被覆する工程では、芯材を引っ張りながら加工します。丸ゴムを伸ばした状態で樹脂が固まれば、ゴムが元に戻ろうとする力よりも、樹脂がその形を維持する力の方が強くなる可能性があります。材料単体ではなく、その後の加工工程まで考えなければなりません。

次は「糸」ではなく銅線を編んでみる

検討はさらに進みました。今度は、直径0.12mmのスズメッキ軟銅線を、製紐機でゴムの周囲に組めないかという試作です。通常、製紐機で扱うのは繊維の糸です。銅線とは、硬さも、強度も、曲がり方も違います。それでも、「やったことがないので無理」で終わらせず、実際に材料を支給いただき、試作することになりました。

やってみると、機械の中で問題が起きた

試作の結果、見本を作るところまでは進みました。しかし、本生産は難しいという結論になりました。理由の一つが、製紐前のワインダー工程。銅線を小さなボビンへ巻き替える作業が難しくなりました。さらに製紐中には、銅線が頻繁に切れてしまうという問題も発生しました。

製紐機は、もともと繊維の糸を扱うための機械です。糸であれば問題ないテンションや機械との接触でも、金属線になると条件がまったく変わります。安定して生産できなければ、量産時の加工時間やコストも算出できません。

そして「伸びるけれど、戻らない」

もう一つ大きな問題がありました。中心に使うゴム糸が非常に細いため、戻ろうとする力が弱い。そこに銅線を組み合わせると、引っ張れば伸びるものの、ゴムの復元力が銅線に負けて、伸びたままになりやすいという状態になりました。

導電性。細さ。伸縮性。復元力。加工性。一つの性能を上げると、別の性能に影響する。特殊な材料開発では、このバランスを探すことが重要になります。

「できません」で終わる前に、一度やってみる

今回の試作では、最終的にスズメッキ軟銅線を使った仕様について、本生産は難しいという結果になりました。でも、その過程で、導電糸の割合を変える。ゴム芯の太さを変える。組み方を考える。材料を変える。実際に機械へかける。という検証を行いました。

新しい用途や異素材の組み合わせでは、最初から答えが分からないことがあります。「作った実績がないから無理」ではなく、何が問題になるのかを試して確認する。それも試作の役割です。

導電糸、特殊糸、ゴム、異素材などを使って、「こんなひもが作れないだろうか」というアイデアがありましたらご相談ください。できる場合もあれば、今回のように量産が難しい場合もあります。ただ、実際に試してみることでしか分からないこともあります。